マンション、アパート、工場、倉庫などの大規模修繕工事の工事内容とは?
マンションの大規模修繕と聞くと、施工している場面はなんとなくイメージできても、どんな工事内容が行われているかはわからないという方も多いでしょう。
マンションの大規模修繕を検討しているのであれば、どのような工事内容が行われているか、施工する時期はいつ頃になるかなど知っておくと安心です。
この記事では、マンションの大規模修繕で行われる工事内容を詳しく解説していきます。
また、マンションの大規模修繕工事を行う際の注意点も紹介しますので、工事の失敗を避けるためにもぜひチェックしてみてください。
マンションの大規模修繕で行われる工事内容
マンションの大規模修繕で行われる主な工事は、以下の4つの施工内容に分類されます。
・仮設工事
・防水工事
・塗装工事
・設備工事
それぞれの工事について、どのような施工内容かを解説していきます。
仮設工事
まずは下準備として仮設工事を行います。
仮設工事には、「共通仮設」と「直接仮設」の2種類があります。
仮設工事の2種類について、それぞれの工事内容を以下で解説しましょう。
共通仮設
共通仮設工事とは、大規模修繕工事を行う間に施工会社が必要とする設備の仮設をすることです。
共通仮設では、以下のような設備が仮設されます。
・現場事務所
・従業員の休憩所
・資材用倉庫
・トイレ
・従業員用の水道
マンションの大規模修繕工事を施工する会社の従業員が、スムーズに、安心して工事を行えるための設備の仮設が「共通仮設工事」です。
直接仮設
直接仮設工事とは、大規模修繕の工事に直接関係ある設備の仮設を行うことです。
直接仮設では、以下のような設備が仮設されます。
・足場
・飛散防止シート
・落下防止用ネット
マンションの大規模修繕工事が安全に行われるために必要な設備を仮設することが、「直接仮設工事」です。
防水工事
建物の雨漏りを防ぐために、防水工事が行われます。
防水方式は要相談となりますが、マンションで行う防水工事はアスファルト防水が多く採用されています。
アスファルト防水とは、アスファルト製の防水シートを施工箇所に貼り合わせていく方法です。
防水シートは「ルーフィング」とも呼ばれ、貼り合わせるための施工方法は以下の3つがあります。
・熱工法
・トーチ工法
・常温工法
熱工法とは、溶かしたアスファルトとルーフィングを交互に重ねながら層をつくっていく方法です。
トーチ工法では、ルーフィングの裏面と施工箇所をバーナーで炙りながら接着させていきます。
常温工法は、裏面が接着する仕様になっているルーフィングを貼り重ねて行く方法です。
また、防水工事には「屋根防水」と「床防水」の2種類があります。
それぞれの内容を、以下で解説しましょう。
屋根防水
屋根防水とは、マンションの屋上に施される防水工事のことです。
マンションの屋上にはほとんど勾配がないため、雨が溜まりやすくなっています。
雨漏りを防ぐためにも、屋上には防水工事が必要です。
床防水
床防水とは、マンションのベランダや共用部分の開放廊下、外階段に施される防水工事のことです。
屋上と同じく、雨が入り込みやすいベランダや開放廊下なども、防水工事を行い雨漏りを防ぐようにしなければなりません。
塗装工事
塗膜の劣化や色あせを補修するために、塗装工事が行われます。
塗装工事では、「外壁塗装」と「鉄部塗装」の2種類があります。
それぞれの工事内容を、詳しく解説しましょう。
外壁塗装
マンションの大規模修繕での外壁塗装では、劣化した塗膜の除去やケレンを行い、必要であれば外壁のコンクリートの補修やシーリングの打ち替えも行います。
その後、塗装して仕上げていくのが一般的です。
鉄部塗装
鉄部塗装は、主に共用部分である手すりや廊下、階段などの鉄部の塗り直しを行います。
また、各戸の玄関ドアやベランダ、バルコニーも対象になることが多いです。
設備工事
設備工事とは、建物の設備を補修したり取り替えたりする工事のことです。
マンションの大規模修繕で行われる設備工事の箇所は、主に以下の9つの部分です。
・給水や排水設備
・ガス設備
・空調や換気設備
・電灯設備
・通信設備
・消防用設備
・昇降機設備
・駐車場設備
・外構や附属施設
それぞれの設備工事の部分について、詳しく紹介していきます。
給水や排水設備の工事
劣化したり、詰まったりしている給水管や排水管の補修工事を行います。
水は毎日使うため、マンション設備の中でも給水や排水設備は劣化しやすい箇所となります。
給水と排水設備の劣化を放置していると、赤サビの発生や水漏れの原因となるため、徹底した調査を行い修繕しなければなりません。
ガス設備の工事
ガス設備の工事では、ガス管やガス給湯器、ガス漏れ警報器などの補修工事が行われます。
ガス漏れは爆発や火事の原因となるため、劣化や破損がないか調査してしっかりと補修しなければなりません。
空調や換気設備の工事
空調と換気設備の工事では、エアコンや換気扇を補修したり交換したりします。
エアコンや換気扇内のフィルターは、定期的に掃除することで設備の寿命を長く保てます。
大規模修繕の際に大掛かりな修繕が不要となれば、工事費用を抑えられる場合もあるため、定期的にメンテナンスを行うようにしましょう。
電灯設備の工事
電灯設備の工事とは、建物内部と外部の電灯や配電、自家発電設備などの補修を指します。
マンションの場合、電灯設備は24時間稼働している状態なので、不足の事態が起きないようにしっかりと修繕をしなければなりません。
通信設備の工事
通信設備の工事では、電話やインターネット、インターホン設備などの補修を行います。
大規模修繕では、通信設備の補修だけでなく、設備のグレードアップを行う場合もあります。
インターネットをスピードが速い光回線に変更したり、インターホンをモニター付きにリフォームしたりするなど、マンション居住者のニーズに沿った改修も必要です。
消防用設備の工事
消防用設備の工事とは、消火栓や火災報知設備などの修繕や交換を指します。
火災時に消防用設備が故障していることがないように、備えておく必要があります。
昇降機設備の工事
昇降機設備の工事とは、エレベーターの補修工事を指します。
エレベーター内のリフォームや、電光掲示板やボタンといった部材の修繕、または交換を行います。
駐車場設備の工事
マンションの大規模修繕では、立体駐車場設備の補修工事も行われます。
マンション居住者の大切な車を預かる場所なので、事故が起きないように定期的に補修をしなければなりません。
立体駐車場には、主に以下の3つのタイプがあります。
・平面式駐車場
・自走式駐車場
・機械式駐車場
「平面式駐車場」とは、地上や建物の地下1階に設けられる平面タイプの駐車場です。
車に乗ったまま駐車できるため、居住者にとっては使い勝手のいいタイプの駐車場となります。1台ずつのスペースが必要なので、マンションの規模によっては広大な土地が必要となります。平面式駐車場では、駐車番号や枠の引き直し、車止めの補修または交換などが行われることが一般的です。
「自走式駐車場」とは、運転者が自走して目的の階にある駐車スペースに駐車するタイプの駐車場です。商業施設にある立体駐車場をイメージしていただければわかりやすいでしょう。自走式駐車場の補修では、照明や消防設備、車止めの修理や交換などが行われます。
「機械式駐車場」には、主に以下の4つのタイプがあります。
・パレット昇降型
・ピット2段式
・昇降横行式
・垂直循環方式
下段の車を出さなければ上段の車両が降ろせないパレット昇降型は、マンションよりも個人宅におすすめのタイプです。
下段部分を地下に収めるタイプのピット2段式の場合、上段の車両もいつでも出入りが可能となります。
マンションでもよく採用されているタイプの駐車場です。
昇降横行式は、1台分の空きスペースを活用して、出したい車をパズルのように上下または左右に動かしながら出入口まで運ぶタイプです。
垂直循環方式は、出したい車を垂直移動させて出入り口まで運ぶタイプの駐車場で、観覧車の動きをイメージすると仕組みがわかりやすくなります。
外構や附属施設の工事
建物の外構や、附属施設の補修工事を行います。
外構や附属施設とは、マンションの敷地内にある、建物以外に設置された門や遊具施設、集会施設などを指します。
外構や附属施設も、マンションと同じく経年劣化するため、大規模修繕工事の際に補修しなければなりません。
大規模修繕工事を行う周期とそれぞれの時期に行う工事内容
マンションの大規模修繕工事を行う周期は、一般的におよそ12年です。
およそ12年周期で行われる大規模修繕工事の、各回で行われる工事内容をそれぞれ紹介します。
1回目の大規模修繕工事
1回目の大規模修繕工事では「美観と機能性の維持」を重視する修繕が行われます。
新築から12年程度しか経過していないため、大きな劣化や破損は少ないです。
そのため、基本的な修繕工事を行うことが一般的です。
2回目の大規模修繕工事
2回目の大規模修繕工事では、修繕工事に加えて「リノベーション」要素が増えます。
1回目の大規模修繕のときに比べて、建物や設備の劣化が進んでいます。
修繕が難しい箇所は、交換してリノベーションする場合が多いです。
3回目の大規模修繕工事
3回目の大規模修繕工事では「設備を一新」する修繕工事が増えます。
3回目となると、新築から30~40年ほど経過していることが多いです。
国土交通省が発表している「長期修繕計画書」でも、マンション設備の多くの箇所の取り替えは築30~40年ほどで行うよう記載されています。
3回目の大規模修繕工事では工事費用がこれまでよりも多くかかる可能性が高いため、不足しないよう積み立てておかなければなりません。
マンションの大規模修繕工事の一般的な工期
マンションの大規模修繕工事にかかる一般的な工期は、規模によって異なりますがおよそ3~6ヵ月ほどです。
ただし、工事内容や天候によって工期は延長したり短縮したりします。
以下にて、マンションの規模別の一般的な工期を紹介します。
大規模修繕を検討しているマンションの規模と、同じタイプをチェックしてみてください。
小規模マンション
小規模マンションとは50戸以下のマンションで、大規模修繕工事の一般的な工期はおよそ3~4ヵ月です。
戸数が少なく建物のサイズも小さめなので、大規模修繕の計画から説明会の実施などがスムーズに行いやすいです。
中規模マンション
中規模マンションは50~100戸のマンションで、大規模修繕工事の一般的な工期はおよそ4~6ヵ月です。
小規模マンションと比べると建物のサイズも大きくなり、設備の数も増えます。
修繕が必要な箇所を的確に補修するためにも、大規模修繕に向けてしっかりと計画を立てておかなければなりません。
大規模マンション
大規模マンションは、100戸以上のマンションで、大規模修繕工事の工期は6ヵ月月以上かかります。
大規模マンションの場合、工事費用が億を超えることもあるため、大規模修繕工事の際に費用が不足しないようしっかりと積み立てておかなければなりません。
マンションの大規模修繕工事にかかる費用相場
マンションの大規模修繕にかかる費用は、1回目の工事の場合、3,000~3,500万円の範囲が相場です。
1戸あたりでは、およそ100万円が修繕費用の平均金額となります。
大規模修繕を検討しているマンションの戸数から、だいたいの修繕費用が算出できます。
マンションの大規模修繕で起こりやすいトラブルの内容
マンションの大規模修繕工事を行う際に起こりやすいトラブルは、主に以下の4つです。
・修繕積立金の不足
・居住者や近隣からのクレーム
・犯罪の発生
・工事の施工不良
それぞれのトラブルの内容と、対策を詳しく解説していきましょう。
修繕積立金の不足
大規模修繕工事を行おうとした際、修繕積立金が不足している場合があります。
修繕積立金が不足していると、十分な工事が行えず、建物の安全性や価値が下がってしまいます。
修繕積立金が不足している場合、マンションの居住者から一時金を徴収したり、金融機関から借り入れたりしてカバーすることが一般的です。
ただし、どうしても不足分を確保できない場合は、工事の延期もあり得ます。
居住者や近隣からのクレーム
大規模修繕の工事を開始した後、臭いや騒音などによってマンション居住者や近隣からクレームが発生する場合があります。
工事期間や時間帯をきちんと告知したり、臭いや騒音の対策を徹底したりしてクレームの発生をできるだけ抑える努力が必要です。
また、もしもクレームが発生したときのために、対応窓口を開設しておくことも工事をスムーズに行うための大切なポイントとなります。
対応窓口は、大規模修繕委員会が担当することが一般的です。
犯罪の発生
大規模修繕の工事期間中に、足場を使って空き巣に入られる被害が起こる場合があります。
マンションの居住者には、防犯対策の徹底をお願いするようにしましょう。
また、工事の施工者とわかるように、施工会社の職人には腕章や社員証などの目印をつけてもらうのもおすすめです。
工事の施工不良
マンションの大規模修繕工事が終了してみると、施工不良や不具合が発生する場合があります。
施工不良には、修繕すべき箇所が修理できていなかったり、工事して数年で塗装が剥がれたりすることなどが挙げられます。
不具合とは、給水や排水設備がうまく機能していなかったり、エレベーターがすぐに故障したりすることなどです。
もしも工事の施工不良が発生したら、施工会社に補修してもらうようにしましょう。
万が一、施工会社が倒産していて補修が不可能な場合には、「瑕疵保険」が利用できる場合があります。
マンションの大規模修繕工事での瑕疵保険とは、施工箇所に不具合があり、かつ施工会社が補修できない何らかの理由がある場合に補償が受けられる保険です。
ただし、保険の対象となる部分が規定されているため、大規模修繕工事を施工して不具合が発生した箇所が補償対象かどうか確認しなければなりません。
また、施工会社が倒産している場合は、工事を依頼した側が保険金の請求を行えます。
このように、瑕疵保険はもしものトラブルをサポートしてくれる心強い保険です。
マンションの大規模修繕の施工会社を選ぶ際は、瑕疵保険に加入している業者を選ぶと安心です。
マンションの大規模修繕は工事内容をよく確認して計画しよう
マンションの大規模修繕では、建物の外部から内部の設備までさまざまな箇所を工事します。
また、マンションの大規模修繕はおよそ12年周期で行われます。
工事ごとのスパンが長いため、劣化している箇所をきちんと調査して修繕しなければ、次の大規模修繕まで放置された状態となってしまいます。
次回の工事まで劣化がひどくならなければいいですが、悪化したり事故につながったりする可能性があるため、工事内容はよく確認して、修繕計画を立てるようにしましょう。
詳しい大規模修繕の情報は「初めての大規模修繕!工事タイミングや費用、実施のガイドライン」でもご紹介しています。